EUのAI規制法に米欧テック大手が反発 施行延期を要請

EU（欧州連合）の人工知能法（AI Act）の主要条項の施行まで1カ月を切る中、米欧のテック企業連合がブリュッセルに施行延期を要請している。Google、Meta、Mistralなどの企業を代表する団体は、同法の施行を数年遅らせるようEUに働きかけ、一部の政治家も支持を表明した。40以上のEUテック団体がロビー活動を展開している。

昨年加盟国間の激しい交渉を経て成立したAI法は段階的に規則を導入しており、次なる重要な施行日となる8月2日からは「汎用AI（GPAI）モデル」への義務が適用される予定だ。これにはGoogleやOpenAIの基盤モデル、Mistralなどの新興企業の技術が含まれる。

施行後はGPAI開発者が詳細な技術文書の作成、EU著作権法の遵守、アルゴリズム学習に使用したデータの要約提供が義務付けられる。さらにシステム公開前にはバイアスや有害性、安定性の検査が必須となる。特にハイリスクと判定されたモデルには、包括的なリスク評価や攻撃テスト実施、EU委員会への重大事故報告、エネルギー消費量の開示などより厳格な義務が課される。

多くのAI企業にとって、これらの新規制は巨額のコンプライアンス費用を意味する。問題はこれだけにとどまらない。「AI実践規範」（当初5月2日公開予定）が未だ発表されていないため、企業は必要な文書作成や有害性テストの実施方法が不透明な状態だ。

先週木曜日に公開された書簡で、45の欧州テック団体はEU委員会に対し、8月の期限前に2年間の「時限停止（clock-stop）」を適用するよう要請。「明確な基準がないまま進めれば混乱を招き、欧州のイノベーションを阻害する」と主張した。規制対応チームの規模が米国企業に比べて小さい欧州企業にとって負担が大きいと指摘している。

EU側の対応としては、欧州委員会のヘンナ・ヴィルクネン数字担当委員が来月までに「AI実践規範」を公表すると約束。一方、スウェーデンのウルフ・クリステルソン首相はAI規則の一部を「混乱を招く」と批判し、施行延期を支持する姿勢を示した。貿易団体CCIAヨーロッパも不足している基準が整うまでの法的確実性を担保するため「時計を止める（stop-the-clock）」措置を要望している。

延期の前例としては、2024年にEUが森林破壊規制を1年延期した事例がある。しかしGPAI義務の延期を実現するには迅速な立法対応が必要で、7月10日までの限られた時間内に決着をつけなければならない。テック企業は既にEUの規制が過度に制限的だと不満を表明しており、MetaやGoogleなどは「規則がイノベーションを阻害する」と訴えている。